福島原発事故から10年 ~もやい展を見て~
私にとって3.11は非常に重く、この10年間、正面から向き合ってきた実感はありません。神戸で被災した経験はありますが、同じ大震災ではありながら、東日本大震災では津波が起き、そして人々を何よりも最も苦めている原発事故という人災があります。そして何よりも、東京に住む者としては福島に原発を押しつけてきている後ろめたさがあります。
しっかりと向き合えないまま10年目を迎え悶々としたまま、4月7日「もやい展」に初めて足を運びました。もやい展は、2017年に始まったプロジェクトで、福島を伝えることを目的としたアート作品の展示会です。
私が以前から注目しているのは、こちらの小林憲明さんの「ダキシメルオモイ」です。もやい展のウェブサイトで、このプロジェクトについて小林さんは次のように説明されています。
「親が子を抱きしめる姿にオモイを込めて描き伝えるダキシメルオモイ プロジェクト。東日本大震災、原発事故を機に福島県で放射能から子どもを守る為に闘う母親たちの力添えがしたいとはじめました。被災地の家族、被災地から避難した家族の絵を、全国の家族の絵で囲むように展示することで、ひとつになれるよ、見捨てないよ、境遇の違いあれど、子を慈しむ親のオモイに差はない、そうしたオモイも込められています。」小林 憲明(画家)
安保関連法に反対するママの会@調布の活動を通して出会った母親や女性の多くが、原発に対しても女性差別に対しても声を上げてきています。政治は自分の手の届かないところにあるものだと思っていた女性たちが母親となり、小さな命を守ろうと思った時、また自分らしく生きたいと思った時、その前に立ちはだかったのは大きな政治勢力でした。政治に無関心ではいられても、無関係ではいられないことに気づいた母親たちが、「子を慈しむ親のオモイ」を平和な社会づくりの原点として動き始めたのでした。
原発事故という人災によって故郷を奪われ、住む家を破壊され、家族を引き裂かれ、人との信頼関係を打ち砕かれた福島の人々。それでもなお人を信じようと、人との繋がりを心の拠り所にして踏ん張っています。小林さんの作品は、福島の人々だけでなく、今の分断社会で疑心暗鬼になっているすべての人々に、「大丈夫」と語りかけてくれているように思います。まだ10年。今からでも遅くない、これからしっかりと福島に向き合っていこう、という思いで調布に帰ってきました。