公教育に何を求めるか?
先日、大阪の小学校校長が松井市長に宛てた手紙をあるML経由で入手しました。(クリックすると開きます)「子どもたちが豊かな未来を幸せに生きていくために、公教育はどうあるべき か 真剣に考える時が来ている。」「『生き抜く』世の中ではなく、『生き合う』世の中でなくてはならない。」松井市長には響かなかったようですが、大変重要なメッセージが込められています。
この数日前、多様なまなびプロジェクト主催のオンライン学習会「多様な教育を知ってみよう! 自律と共生を自然に育むオランダのイエナプラン教育」に参加し、リヒテルズ直子さんからオランダのイエナプラン教育についてお話を伺ったところでした。大阪の校長先生が疑問視する、競争社会に勝ち抜き、負け組にならないためのノウハウを教え込む場と化している日本の学校と、差別のないインクルーシブな環境で、世界のために共に生きることを学ぶオランダの学校。どちらも公教育の姿です。私たちは日本の教育をどのように軌道修正すれば良いのでしょうか。
イエナプランは、19世紀前半にドイツのペーターセンがイエナ大学に勤めながら実験校で実践を重ねた教育方法ですが、オランダのフロイデンタールが受け継いだ後、オランダで広く取り入れられています。
子どもは一人ひとり違うので、その子に合わせる。
子どもを真ん中に置く。
その子の強みを引き出すために周りが学ぶ。
世界の真ん中にいることを大切に。だから異年齢集団の中で学ぶ。
一緒に生きることを学ぶのが学校。
違うから一緒に生きる。
そこにあるのは、同調ではなく共生。
学校とは…
インクルーシブな空間。つまり差別がない空間。
自由。まず自分で考える「批判的思考」をつける。
創造性を育む。常に新しいものを見出していく。
対話する。人間的で民主的な場所。
イエナプランを取り入れている学校が200以上あるというオランダには、教育の自由があります。誰でも自分の思うように教育をしても良く、学校を作り、学級編成をすることができます。また、公立・私立問わず国から補助が出るため、子どもたちは多様な学校の中から選んだ学校で無償で教育を受けることができます。学習指導要領の縛りが強く、全国どこの学校へ行ってもおおよそ教科書の同じページの授業をしているという日本とはかなり様相が違います。(学習指導要領や教科書の縛りがここまで厳しい国は少ないそうです。)
一方、オランダと日本の教育には共通点もあると思います。ペーターセンの「メンセン・シューレ(人間の学校)」という考え方は、子どもたちに教え込むのをやめ、好奇心を共有することで、子どもたちの育ちや学びを人間的にしようというものです。理論上は、今の日本の学習指導要領が目指す「主体的、対話的、深い学び」と通底するものがあるのではないでしょうか?
問題は、詰め込み教育を受けてきた私たち大人が、子どもとの関係性を変え、教える・教え込む立場を脱却できるかどうかだと思うのです。共生よりも同調を身に着けてきた保護者や先生たちが、人はみんな違うから良いのだと考えられるようになること。そして、批判を恐れず自分で考え、判断すること。自由になること。
リヒテルズさんは、教育者は理想を失ってはいけないと言っています。私自身、教員時代に理想からは程遠い授業や生活指導しかできなかったことへの自戒を込めつつ、教育のあり方について取り組み続けたいと思っています。