都立高校入試のスピーキングテストは問題だらけ

2023年に実施される都立高校の入学試験へのスピーキングテスト導入について、懸念の声が上がり続けています。調布市議会からも東京都教育委員会に意見書を上げるべきだと考え、3月に議員提出議案議員提出議案として提案しました。参考資料で詳細も伝えたつもりでしたが、課題の重大さを十分に共有することができず、残念ながら否決されました。世論で再検討、廃止を実現したい問題です。

いくつか考えられる問題点について考えてみたいと思います。7月に作成された受験生と保護者向けの説明資料もご参照ください。(クリックで開きます)

speaking_esat-j_202207保護者向けのサムネイル

【問題点①】換算による問題
スピーキングテストは100点満点で採点された後、点数にしたがってA~Fに分けられ、そこから20点満点に換算されます。この20点満点の点数が、最終的に入試の可否に関係する総合得点に加算されます。

100点満点の点数 100-80 79-65 64-50 49-35 34-1 0
C D E F
20点満点の点数 20点 16点 12点 8点 4点 0点

79点の生徒と80点の生徒の点差について考えてみてください。2人の点差は100点満点の時には1点ですが、それぞれAとBの評価に分かれますので、換算後の点差は4点に開きます。一方、100点の生徒と79点の生徒は21点差ありますが、換算後は同じく4点差です。

また、100点を取っても80点を取っても20点に換算されますし、34点でも1点でも4点に換算されます。なぜ単純に5で割らないのか疑問です。

【問題点②】総合得点中の配点の問題

学力検査と調査書の点数比が7:3の高校を受験したと想定して、教科ごとの配点を見てみます。

学力検査 対象の国語・数学・理科・社会・英語の5教科は、それぞれ100点満点で採点されます。合計すると満点は500点になりますが、700点になるように1.4倍します。つまり各教科は140点満点になります。

調査書 主要5教科は1科目あたり5点です(合計25点)。副教科4教科は1科目あたり10点です(合計40点)。つまり満点は65点ですが、これを300点満点に換算します。(x4.6くらい)

これまでは上記を合計した1000点を総合得点の満点として合否判定がされていましたが、ここに20点満点のスピーキングテストの点数を加えることになりますので、総合得点は1020点満点ということになります。

各教科の配点を総合得点から見てみます。

国・数・理・社 ⇒学力検査の得点は各140点満点、調査書の点数は各約23点満点 ⇒ 1020点中 163点
副教科4教科 ⇒学力検査はなし、調査書の点数は各約46点満点 ⇒ 1020点中 46点
英語 ⇒学力検査の得点は主要4教科と同じく140点満点、調査書の点数も23点満点、ESTAT-Jの20点満点 ⇒ 1020点中 183点

つまり英語だけ配点が高くなり、英語が得意な受験生に有利な入学試験になります。換算方法を見ても、総合得点への加算方法を見ても、公立高校の入学試験に求められる公平性に課題があることがわかります。

【問題点③】テスト実施方法の問題
試験は、タブレット端末から問題を聞き取り、制限時間内に録音を吹き込みます。私も模擬テストを試してみましたが、通常の会話よりも素早く回答を求められる印象を受けました。機器の操作の得意、不得意も関係するでしょう。こういった本来スピーキングに求められる力とは無関係な要素が結果を左右する可能性が非常に高いテストだと言えます。吃音や発達障害等への対応も大きな課題となっています。

【問題点④】採点や評価の問題
英語のスピーキングテストで、生徒たちは一体何を評価されるのでしょうか。海外に行けば、それぞれの国の言葉に影響を受けた英語はいくらでも聞こえてきます。ヒンズー語訛り、中国語訛り、フランス語訛り、日本語訛り。ネイティブの英語も発音は実に様々です。ですが、伝えたいことが正しく伝われば、ネイティブのような発音である必要はありません。

発音だけではありません。私が出会った中国や香港の友人は動詞の過去形を使いませんでした。中国語には過去形がなく、「昨日」「昔」といった過去を表す言葉を用いることで過去であることを表すそうです。動詞が過去形に活用するという感覚がないため、「行った」にはwentではなく、”have go”という表現を使っていました。文法的には間違っています。しかし、これで十分通じるのです。「コミュニケーション能力」が総合的に何を指すのかを明確にする必要があります。評価基準を明確に示せなければ、中学校の授業や受験生たちは学習の目標設定ができません。

【問題点⑤】家庭の経済格差が影響する可能性
すでに多くの塾が対策に乗り出しています。公立高校に入学するチャンスはすべての生徒に開かれていなければなりません。学習塾に通えるかどうかが受験の結果にさらに影響するかもしれない現実は、経済的な理由で公立高校への入学を強く希望する生徒にとっては深刻な問題です。

【問題点⑥】事業者への利益誘導の可能性
請負事業者のベネッセは、すでに有料のスキルアップ講座を実施しています。ESAT-Jの導入は特定企業への利益誘導となる可能性があります。

【問題点⑦】不受験者への対応の問題
現在、調布市内の受験生たちは、11月に実施されるESAT-J受験の登録を進めているところです。もし試験を欠席したらどうなるのでしょうか。


これによると、欠席した場合も、学力検査の点数と他の受験生のスピーキングテストの点数を使って換算した点数が付加されます。そのため、スピーキングが不得意な生徒は受験しない方が得なのではないかという声も聞こえてきます。これはもう、入学試験として破綻しています。

【問題点⑧】採点にミスがなかったか確認できない?
プレテストの際、採点の開示請求に対して東京都教育委員会は対応ができなかったと言います。過去には、入試の結果に納得できなかった受験生が採点の情報開示請求をしたことで採点ミスが発覚したこともあります。受験生が採点の是非を確認できない現状のまま強行することは許されないのではないでしょうか。

この他にも指摘されている問題があるかもしれません。1点の違いが子どもの人生を左右する可能性がある入学試験に対して、配点や試験方法の公平性、採点の透明性などの多くの問題が指摘される20点が加算されようとしています。公平な入学試験が行われるよう、受験生や保護者の皆さんもこの問題を広く共有していただき、声を上げてください。