これからどうなる?ゲノム編集
5月14日、多摩南生活クラブ生協のまち調布狛江主催のゲノム編集に関する学習会に参加しました。講師は生活クラブ連合会の前田さんです。
DNAは、4種類の文字(A・T・C・G)で構成され、二重らせんの構造になっています。ゲノムはDNAでできている、ある生物がもつすべての遺伝情報のことです。4つの文字のうち3文字が繋がってアミノ酸(20種類)を作り、そのアミノ酸がさまざまにつながってタンパク質を作っています。20種類のアミノ酸にはそれぞれに働きがありますが、文字を変えると別のアミノ酸になり、タンパク質の構造が一部変わることになります。そのことで、そのタンパク質はある機能を失ったり、新しい機能が加わったりする可能性が出てきます。
従来の遺伝子組み換えには2つの方法があります。そのうちの1つは、もともとある作物に遺伝子を打ち込むという方法です。例えばDNAのある部分の文字がATTCGGと並んでいるとします。そこにAを打ち込み、うまくいくとATTACGGのように入れ込むことができます。さらにうまくいけば、害虫に強いといった狙い通りの特徴に繋がることもあります。しかし成功率は10万分の1程度と非常に低く、現在の遺伝子組み換え作物は、かなり偶然の産物に近い形で得られたものを増やしてきています。もう一つの方法も含め、時間も費用もかかるため、大企業が特許を独占しているのが現状だそうです。
それに対してゲノム編集は、新しい文字を入れたいところを見つけて切断する方法で、2つの方法があると言います。1つは、切断したところに新しい文字を入れ込み、他の生物の特徴を出させる「ノックイン」。もう1つは、切断することである特徴が現れなくさせる(切った後の変化は自然に任せる)「ノックアウト」です。現在商業化されているのはノックアウトの方だけですが、成功率は50%とぐっと高く、高校生がラボでできてしまうくらい安価で簡単にできてしまうそうです。
これまでに開発されているゲノム編集食品にはサナテックシード㈱の高GABAトマト(シシリアンルージュハイギャバ)やリージョナルフィッシュ㈱のマダイ(22世紀鯛)があります。例えばGABAはもともとトマトに含まれるものです。一般のトマトは、自らの酵素の働きでGABAの生合成を活性化させたり不活性化させたりするのですが、シシリアンルージュは、不活性化させる酵素(タンパク質)をノックアウトで切り取り(=ゲノム編集)、常に活性化された状態にすることでGABAを通常のトマトよりも多く含む品種に開発したものです。22世紀鯛も同様に筋肉の生成を抑制するタンパク質を切り取ることで、筋肉が多く可食部が多い品種にしてあります。
現在、芽が出ても毒素のソラニンやチャコニンが含まれない「安心な」ジャガイモや、傷がついても白いままのマッシュルームなど、他にも開発中のものがあります。ジャガイモの身になってみれば、芽の部分は食べてほしくない部分として毒素を持たせているわけですが、工業用に仕入れたジャガイモは芽が出ていると全廃棄になるので、人間としては毒素がない方が都合がいい。マッシュルームに傷がつくと色が変わるのは、傷口からばい菌が入らないようにポリフェノールを作るからだそうです(ごぼうも同じ)。茶色い色そのものは悪いものではないようですが、見た目がきれいなのは嬉しいという人は多いかも知れません。
人間がどこまで自然に介入してよいのかという倫理的な問題もありますし、交雑により他の作物にも影響を与えて行く可能性がありますから、環境への影響も懸念材料です。そして何よりも、人体への影響はどうなのかという問題は、私たち自身が身をもって実験台とならなければ検証はできません。「食」に対して求められる価値はさまざまありますが、安価で大量生産することや見た目といったことが安全性よりも優先されすぎているように感じます。でもそれは、他でもない、消費者である私たちが食に対して求めてきた、またはそういった価値観を肯定してきたことの表れではないかと考えさせられました。
安価ででき、成功率が高いゲノム編集食品は、これから遺伝子組み換えに取って代わっていく見通しです。大企業でなくても多岐に渡る開発が可能になります。現在のところ開発業者は自主的に表示をしていますが、表示義務がありません。消費者が食べたいものを選ぶには表示の義務化は必須です。このあたりは主権者教育にも通じる問題だと思います。「私が食べたいものは、私が決める・決めてよい」という消費者としての権利意識をきちんと育てることが、安全な作物や食品を頑張って生産する農業者や企業を守ること、バランスのよい自然と人間の共生、そして健康な体づくり、すべてに繋がっていくのだと思います。
学習会で並べられていた資料の数々。食の安全に高い関心をもつ市民が大勢参加しました。これからも情報を共有して、市民の食の安全を保障するためにできることを一緒に考え、行動していきたいと思います。