リベラル保守ということ~中島岳志さん講演より~

東京都・生活者ネットワークの新春の集いに参加して、中島岳志さんの講演を聞きました。

中島さんは、図のような独自の【政治のマトリクス】で政治家や政党の分析をされています。

リベラルの対抗軸は保守ではなくパターナルであるという中島さんの分析は、いわゆる保守の政治家が「俺に任せておけ」と言って頼らせておきながら、きちんと対応せず、権威主義的な活動をする姿を垣間見る中で、強く感じていたことと合致しており、思わず納得しました。(しかし、任せておけば大丈夫と思い込んで選ぶ国民、市民がいるのだから仕方がない。)

また、これまでの市民活動の中で、保守と革新、右派と左派のねじれのようなものも感じていましたので、その視点からも興味深い分析です。これまで革新派と言われていた政党が憲法遵守を謳う姿は若者の目から見ると保守であったり、憲法を変えようとしている安倍政権は、変えようとしているという点においては「革新」のようにも見える。・・・が、いわゆる「リベラル」からは程遠い。では何か?と言った時に、「パターナル」は非常に腑に落ちます。paternalismは「家父長主義」という意味ですから、強者優先の政治、政治の私物化、選択制夫婦別姓制度への抵抗(家制度重視)などの説明もつきます。

かつての自民はもっと多様で、大平元総理はII,のちの石破さんもII(辺野古反対、夫婦別姓賛成)、小泉元総理はIIIだったと言います。しかし、今はもちろんIVで、今後はI~IIIに属する多様な自民の政治家が減り、安倍政権下の選挙で選ばれたIVゾーンの若手政治家が残っていくため、IVのカラーが濃くなる一方だろう。一方、希望の党が失敗に終わったのは、前原さんや細野さんは、実はIIに属するにもかかわらずIVに属する小池都知事と組んだために、国民は混乱したためだということでした。(斜めのグループ同士が組むと失敗する。例外は今の自公、というのも興味深いですね。)

では国民も大半がIVに属する思想を持っているのかというと、実際は与党支持3割、野党支持2割、浮動票5割ということですから、純粋に現政権を支持している国民は3割しかいません。しかし、5割が政治を諦め、選挙権すら放棄しているのが現状で、その背景には、①小選挙区制と二大政党制では、2つの政党が同じことを言い始める(そのためどちらを選んでよいかわからなくなる)、②新自由主義の行政や政治がすることを民間に任せる流れの中で、投票に行って政治家を選んでも世の中が変わる実感が得られない、という2点があると指摘されていました。

では人々は政治を諦めてしまっていいのか?それこそパターナル思想の権力者が望んでいることではないでしょうか。そして、そのような政治の行く先は独裁です。投票率を上げ、選挙に行かないマジョリティの5割の人々の声を丁寧に聞くことが重要であり、そのために野党に求められることは、本当の保守とは、「大切なことを見極め、その大切なものを守るために変える(reform to conserve)ことを厭わない」、「意見の異なる人の考えに耳を傾け、自分自身の考え方を客観的に見つめて、時には変えていく」ことである、そういう<リベラル保守>の可能性をもっと認めて、時代の求めるものに適応していかなければならない、と説かれました。

生活者ネットワークは、台所から議場へと、いわゆる主婦たちが生活感覚の中で感じる課題を政治の力で解決に繋げようと、消費者運動が基盤となってできた地域政党です。小さな政党とは言え、地域の中の小さな声を政策に繋げ、市民自治を大切にした活動に対しては、変わらず支持を得ています。しかし、女性の生き方も多様になり、「台所」という場所も必ずしも女性が取り仕切る場所ではなくなりました。そんな時代の変化の中で、これまで通り大切にしていきたいものは何か、そのために変えなければならないことは何か、しっかりと見つめて前進していくことが、声なき5割の人々の思いに応えていくことにもつながると思います。大きな挑戦ですが、パターナル思想が支配する今の日本社会で私たちが担う役割は非常に大きいと感じ、今後の政党のあり方も含め、前向きに取り組んでいきたいと思いました。