調布市も自衛官募集に対して除外申請ができるようになりました

1年以上前のことになりますが、中学3年生のお子さんがいる調布市の方から「自衛隊の学校の学生募集案内が送られてきた、どこから個人情報が伝わったのだろう」と問合せが複数ありました。その後、このようなことが起きた経緯を所管の総合防災安全課に確認するとともに、委員会で「除外申請」ができるように対応を求めていました。

そして、今年度より、自衛官募集については除外申請ができるようになりました

①なぜ自衛隊からDMが自宅に届くの?

各自治体で管理している住民基本台帳には住民の氏名、生年月日、性別、住所などの個人情報が記載されています。国や地方公共団体のほか、正当な理由があると認められれば誰でも閲覧し、書き写すことができます(条件は厳しいです)。

自衛官を募集する事務は、自衛隊法97条法定受託事務(国から市町村に委託される事務)として定められています(「都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う」)。そのため住基台帳の閲覧が認められています。市HPで公表されている住基台帳の閲覧請求状況を見ると、2020年、2021年にも自衛官募集事務を目的とした閲覧請求があったことが分かります。

【調布市】R2閲覧状況のサムネイル
【調布市】R3閲覧状況のサムネイル
さらに自衛隊法施行令120条(「防衛大臣は(中略)都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる」)では、閲覧のみではなく、自衛隊から自治体に対して必要な資料の提出を求めることができるとなっています。そのため、求めに応じることは義務ではないものの、2021年度までにも自衛隊に名簿を提供していた自治体が一部ありました。しかし、多くは調布市と同じように閲覧して手で書き写してもらうという対応を取っていました。

②なぜ「閲覧」から「提供」に?

調布市でも2022年度から対象者の住所と氏名を印刷したタックシールを提供するようになりました。なぜ「閲覧」から「提供」に対応が変わったのでしょうか?

その背景には安倍元首相の発言があります。安倍氏が「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否しているという悲しい実態がある」と発言したことを受け、2020年12月、自衛隊法施行令120条を根拠に「市区町村長が住民基本台帳の一部の写しの提供が可能であることを明確化する」ことが閣議決定されました。そして2021年2月、防衛省と総務省が各自治体に対し、住基台帳の写しの提供も問題がないことを(わざわざ)通知したのでした。

住基台帳上の個人情報の提供方法はいくつかあります。例えば
・該当者の名簿を印刷して提供
・CD-Rなどに焼いてデータで提供
・調布市のようにタックシールに印刷して提供
などです。

従来の閲覧の場合、性別や世帯主など案内送付には必要がない情報も見ることができますし、実際、自衛隊は対象者の氏名・住所・性別・生年月日を書き写していました。また、書き写したこれらの情報は、申請時の目的以外には使わない約束で書き写しているものの、自衛隊の手元に残ります。

一方、自治体側で作成したシールを渡せば、提供する情報を住所と氏名に限定できるほか、自衛隊が募集案内送付の目的に使った後、手元に残りません。自治体側に情報を提供する義務はありませんが、自衛隊側で閲覧はできますので、個人情報保護の観点からはタックシールでの提供があり得る手段の中で最も手堅いというのが調布市の判断だったようです。(タックシール代は国の負担です。)

このような経緯を経て、2022年度からはシールに印刷した形で調布市から自衛隊に対象者の情報が提供されてきています。

③しかし個人情報は市民のもの

そうは言っても個人情報は市民のものです。市もそのような認識だということは総務委員会で確認しました。それならば、提供を拒否する権利があるはずですので、他の自治体でもすでに行っているところがある除外申請を調布でもできるようにと求めていました。市はその後、要綱などを整え、今年度より調布市でも自衛隊から募集対象者の情報提供を求められた場合、申請手続きをすれば対象から除外できるようになりました。

自衛隊からの情報提供の依頼は毎年あるわけではありません。2024年度は今のところ依頼が来ていないとのことです。今後、自衛隊から情報提供の依頼があった場合は、期限を設けた上で、市の方で除外申請を受け付けます

詳しくは市HPをご覧ください。

◆自衛官募集と陸上自衛隊高等工科学校などの学生募集の違い

自衛官募集は18歳や21歳の若者が対象ですが、陸上自衛隊高等工科学校の学生募集案内は中学3年生が対象です。そして、「自衛官募集事務」はあくまでも自衛官募集に関する事務手続きであって、学生募集とは別物です。そのため、中学3年生に届く学生募集案内の送付に必要な個人情報は、自衛隊が直接閲覧して手で書き写す従来の方法で入手しますので、除外申請をすることができません。

いきなり自衛隊学校からの案内が自宅に届くことへの抵抗を感じる市民も少なくないと思われますので、今後は先方から住基台帳の閲覧申請があった場合は、市報などで学校案内が届く旨を事前にお知らせします。

◆子ども・若者の意見を聞こう

災害時に自衛隊員が果たす役割の大きさは理解するところですが、解釈改憲で集団的自衛権の行使が容認されてから自衛隊の意味合いは大きく変わりました。また、自衛官になるということには生活の安定を得るという面もあるため、経済的徴兵制と言われる側面も持ち合わせています。そうした背景をきちんと伝えないまま、学校案内を一斉に送付するというのはいささか乱暴だと感じます。

一方、子どもの権利の視点からも、中学生が数ある進学先の一つとして自衛隊の学校の情報を知っておくことを全否定する必要もないとも思います。子どもや若者自身が提供される情報を吟味し、除外申請についても自分自身で考え判断できることも大切なことです。そのためにも、私たち大人が必要な情報をきちんと伝えるとともに、子どもや若者の意見を聞くということを日頃から実践したいものです。